中国では、鯉の薬用としての紀文は、「神農本草経」という書物に初めて出てきます。
これは中国の現存する最古の薬物書です。この書物には薬になる動植鉱物が365品目収載され、鯉は長期に食用しても害がなく、人の健康を保つために用いられた上品、上薬といわれる医療品の中に分類されています。
また、今から1500年ほど前の梁代に、陶弘景という医薬者がいました。
この人は中国各地の名医の意見や体験をもとに、「名医別録」という薬物書を出して、鯉の肉の効用を次のように述べています。「鯉の肉の味は甘で、せき込んで苦しい状態や肝臓を治し、口の渇き病(糖尿病など)の口渇を止め、水腫脚病や肝臓病で足に水がたまって腫れている状態を治し、気を下す(気持ちを落ち着かせる)」
慢性肝炎になり、肝硬変になれば、完全に治ることは不可能ですが、肝臓の4分の1が元気に働いてさえいれば、その人は天寿を全うできるといわれています。
私の実験室で、鯉の煮たものを実験動物に毎日食べさせると、再生肝作用といって、新しい肝細胞がどんどん増殖していく作用があることが判明したのです。
また、鯉の肉にはタウリンという、強肝剤として使われる含硫アミノ酸が含まれています。
これは飲酒時には解酒毒剤となり、酒で二日酔や脂肪肝になるのを予防する作用があるのです。
鯉を食べると食欲がわき、胃炎が治り、便秘も解消するという効果があります。
試しに、実験動物に胃潰瘍を発生させ、これに鯉を食べさせたところ、確かに治療促進効果があり、まるで薬のような効果がみられました。
すなわち、胃潰瘍の人は、薬ばかりでなく、鯉のような高栄養食品を食べることも大切です。
胃もたれなど2、3日でよくなった例や、長年わずらっていた胃潰瘍が鯉を食べ始めてからよくなって、手術の必要がなくなったという話も聞きます。
鯉は腎臓病の薬としても大変有名なものです。
特に「むくみ」を解消するのに著効があるのです。腎臓病で体がパンパンに腫れ上がっているときに鯉を食べると、一気にその水分が体外に排出されると言われています。
鯉は母乳の出をよくするという知識も、中国から伝来したものです。
明の時代の大薬学者であった李時珍は、その名著「本草網目」の中で「乳汁を下し、腫を消す」と記しています。
つまり、鯉は乳児に母乳を飲ませたくても、十分に出せない母親にとっては、願ってもない特効食品です。
鯉はこのほか、皮膚病、婦人病、リウマチや痔などにも効くと言われています。鯉は以上のように、優れた薬用魚であり、良質の栄養食品です。
皆さんのご家庭でも、ぜひ時々は鯉料理で食卓を賑わし、一家の健康を増進してください。